仲居の和美。其の一
〜モノに成る女〜

私の「性具」嗜好は、高校生の頃、父の書庫で「リンの玉」を発見して、
それがオメコへ入れて使うものだと知った時から始まったような気がします。
説明書の中に「リンの玉、芋を洗うが如くなり」という古川柳が引用してあって、
子供の頃、田舎で見た里芋を洗う作業の様子を思い出し、
凄く興奮した事を覚えています。

真珠で性具を作る事を思いついたのは、中年に入ってからの事で、
それは男として一番脂の乗った時期でしたから、人一倍仕事もしましたが、
それに比例して女遊びも良くやりました。

或る年の夏場の暇な時期を見計らって、商品の販売促進と金銀の細工物をする
「飾り職人」を紹介してもらって、真珠で性具作りに情熱を燃やしていた頃の事、
一週間ほど六甲山の麓の商人宿へ泊まった事がありました。

季節は丁度六月に入って、六甲の山の辺りは、どちらを見ても濃い緑に覆われ、
朝夕其れを目にすると、心が洗われるような清々しい気分になる毎日でした。

漸く私の仕事も終わりが近づいて、心にゆとりが出て来た折りも折、
頼んであった性具の試作品が出来上がったのでしたが、そうなると持ち前の
スケベ心が頭を擡げて来て、早速其れを実地に試してみたくなって、誰か適当な
相手は居ないものかと、関心は仕事よりも専ら其方の方へ向けられ始めました。

そんな或る日の夕方の事でした。
一風呂浴びて浴衣に着替え、やがて夕食も済ませましたが、
街に出掛けて行くのも億劫な気分で、そうかと言って寝るには未だ早い
時間でしたし、部屋のテーブルの上にサンプルに持ち歩いていた
宝石のネックレスや指輪、ブローチ、それに新しく試作した性具を並べて
整理していました。

試作の性具と言うのは、私が密かに「真宝珠」と名付けた、直径が三センチ程の
銀製の球体の表面に、六ミリほどの真珠をビッシリと張り詰めたもので、
趣向は「リンの玉」の真似ですが、表面の滑らかさは真珠特有のモノがありました。

やがて仲居さんが夜具を延べにやってきました。
「まあ、綺麗な宝石やこと!」
彼女は寝床を延べるのも忘れたように声を弾ませながら、
一番目に付く真珠のネックレスに顔を近付けて、熱心に覗き込んでいます。

彼女はその時初めて見る顔で、色白でふくよかな体つきや、目許に男心をそそるような
色気が漂っていて、私はふと心のときめきをおぼえたのでした。
「ウチ、真珠が大好きやワ。結婚式でもお葬式でも、何時でも使える言うし・・・」
「そうです。真珠はオールマイティーですなあ。どうですか、お姉さんもおひとつ?」
私は身に付いた商売気を出して、仲居の顔を見上げました。

彼女の年の頃は、四十路に入ってまだ間もなくか、或いはもう少し上かと思える
感じで、相手にするには一番手頃な年代かと思えました。
「欲しいけど、百貨店で見たかて、どれもこれも高いからなア」
「百貨店のものは、品物は間違いないやろうけど、値段もそれ相当に付いてるでなあ」
「そうですねんやワ」
彼女は頷いて、
「もうちょっと見させて貰うても、よろしゅおますか?」
と今度は私に寄り添うように腰を屈めてきました。
「どうぞ、ご自由に。気に入ったものがあったら、手に取って見てください」

私の言葉に、彼女は暫らく製品を眺めていましたが、最後に性具を見つけて、
「あれ、これは何んやろ?」
と独り言を言い、例の「真宝珠」を手に取って眺めています。
「ああ、それなア、それはオメコへ入れて使う秘密兵器なんや」

仲居さんは私の言葉に最初はきょとんとした表情で、私の顔を見詰めていましたが、
「まあ、冗談ばっか言わはって・・・」
と漸く意味を理解したと見えて、急に恥かしさを隠すように、
軽く私の肩をぶつ真似をしました。
一瞬、浴衣の襟元の辺りから甘い香水の香りが立ち昇り、私の鼻孔をくすぐって流れます。

是までの経験から、モノになる女は最初に出会った時から何となく分かる物で、
その時も、この女はモノに成ると踏んで、手を出す機会を待っていた、と言うのが
正直な所でしたが、いよいよチャンス到来という思いで、私は作戦を開始しました。

テーブルの上の大型の指輪ケースの中から素早く真珠の指輪を一つ取り出して、
「これ似合いそうだから、ちょつと嵌めて見て下さい」彼女の前へ差し出しました。
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