七回忌法要の夜。其の三
〜二人の青春時代〜

後で知った事だが、佳代は努めていた製糸工場で、
五歳年上の工員と恋愛関係になり、処女と惜別し、
数ヶ月後に妊娠をしたが、すぐに流産してしまった。
其の為其処の製糸工場に居られなくなり、別の製糸工場に移り、
三畳一間の下宿生活に入った。

私が童貞を捨てたのは、
電気部品の工場に入社して三、四ヶ月目位たった頃だったろうか。
当時はまだ赤線の灯りが夜の歓楽街を色染めて居た頃で、
私の場合は浅草の近くの遊郭であった。

仕事が終わると先輩社員に毎晩の様に飲みに連れていかれた。
いつもなら、飲み終わった時「俺、帰る」と言って先輩達が遊郭に出向くのを
見送って居たのだが、其の夜は給料日だったので懐も暖かかったし、
「何時までも童貞坊主だと、女に馬鹿にされるぞ」と言われ、酔っていた私も、
それならと腹を決めて、先輩に付いて行った。

初めての女は四十歳前後だったろうか。記憶は余りはっきりしない。
女の胸に触っただけで射精してしまって。
二度目で初めて女体の中に挿入したと思う。
しかし、まさに三擦り半そのものだった。

遊郭の前で先輩が出て来るのを苛々しながら待った。
三、四十分余りの待ち時間が、
一日中待っているように長く感じられた。

ひと月のうち、三、四回、先輩に飲みに行くことを誘われる。
其の度に彼らと一緒に遊郭に行くようになった。
そして時には一人で出掛ける楽しみを覚え、女を抱く快感を知った。

そのうち、遊郭は金が掛かる事が判ってきて、
気づいた時には貯金も無くなってしまっていた。
借金をするようになり、給料の前借りで、
給料日に入ってくる金はゼロということも有った。

姉の佳代の許に手紙を出し、送金をしてもらう事も何度かあった。

「女を買う金がないのなら、バーのホステスや素人の女を狙え」
先輩に励まされて(?)行きつけのバーのホステスに迫った。
通いつめてグデングテンに酔って、気づいた時にはホステスの
部屋に連れて行かれていた。

「陽三ちゃん、あんた、結構立派なモノを持っているのね」
ホステスはそう言って、裸にした私の股間のモノに顔を伏せ、
弄びながらペロペロと舐め、口に含んでしゃぶりたてた。

ホステスは二十三、四歳で、確か、みどりとか言っていたが、彼女は私に、
「一人前の男にしてあげる」と言って、夢中に成って抱きついてきた。
私には異存はなかった。わたしはさっそく下宿を引き払って、
彼女のアパートの部屋に転がりこみ、同棲した。
上京して三年目に入ったころだった。

私はみどりによって、セックスによる男の快感を教え込まれた。
彼女も私に抱かれて本気で上り詰め、
半狂乱の状態に成って身悶えをくり返していた。

女は子宮で物事を考えるというが、セックスに成ると子宮の塊に成ってしまう。
そんな女の特性を私は知った気分になっていた。
みどりと同棲をしながらも、私は夜に成ると飲み歩き、他のバーのホステスや
素人娘達と遊んでいた。連れ込み旅館(今はラブホテルと呼ばれている)に
誘い込み、女達の体をタップリと抱き、いろんな女と楽しんだ。

同棲を始めてからは、仕事も休みがちに成り、勤め先の電気部品の工場からは
何度も注意され、とうとうクビになってしまった。其の為にみどりのヒモのように
なったのだが、同棲生活に入ってから一年半余りで破局となり、
彼女のアパートから追い出されてしまった。

それからはバーのボーイ、食堂の皿洗い、キャバレーの客引き、
運転免許を取ってからは酒屋の配達係り、運送会社の運転手などと、
職業を点々と変え、まさに其の日暮らしそのもので、荒れた毎日を送っていた。

あれは十九歳のころだったろうか?バーでヤクザのチンピラと知り合い、
半年余り付き合ったことがある。
昼間はたしか不動産屋に勤めていた記憶があるが、夜になると知り合った
ヤクザの下っ端とつるんで飲み歩き、弱そうなサラリーマンを見ると、
難癖をつけて恐喝まがいの事をしたり、飲食店から頼まれて、
飲食店のツケの取り立てに出向いた事も有った。

いっぱしのチンピラを気取っていた時期だったが、酔ってあまり意気がっていたものだから、
他の暴力団の縄張りに顔を出したために、彼らの組事務所に引っ張り込まれ、
袋叩きの目に合い瀕死の状態で放り出されたのである。

連絡先は姉の所しかない。私は佳代に連絡を取り、入院費の工面を頼んだ。
姉の佳代は、私の為に直ぐ駆けつけて呉れた。

「陽ちゃん、あんた、なんてことを・・・」体中アザだらけの私の姿を見て、
彼女は絶句した。しかし入院費は全額面倒を見て呉れる事に成った。

「来月になったら、東京にでてくるわ。陽ちゃん、姉ちゃんと一緒にすもうか」
「製糸工場はどうするんだ?」
「やめるの・・・製糸工場に出入りしている洋品屋の人の紹介で、
 洋品店に勤める事にしたのよ」
「姉ちゃんのコレ?」
私は佳代に向かって親指を立てて見せた。親指は彼氏の事を示していた。

「陽ちゃん、そんなんじゃないわよ」
佳代は否定したが、私は直感でその男が恋人だと思った。
其の途端、見知らぬ姉の相手に対して、
怒りとも嫉妬ともつかない感情が沸き上がって来た。

「幾つなんだ、その男は?」
自分の女遊びは棚に上げて、私は姉を問い詰めた。
しかし彼女は、「そんなんじゃないって言ってるでしょう」と言うばかりだった。
(姉ちゃんの彼氏は、この俺がしっかりと見定めてやる!)
私は胸の内でそう叫んでいた。

入院は一週間だった。其の間にヤクザとの付き合いが、勤め先の不動産屋に知られ、
クビに成ってしまった。退院した私は直ぐに就職先をさがし、電気部品の工場に
努めていた経験と運転免許を持っていた事で仕事は直ぐに見つかった。
それは商店街の中にある電気店で配達と修理を受け持つ店員としてだった。

当時家電業界の所謂“三種の神器”と言われた、テレビ、洗濯機、冷蔵庫が
飛ぶように売れテレビアンテナの取り付けから修理まで器用な私は重宝がられた。

そんな仕事の合間にアパート探しもして、顧客の老夫婦の持っていたアパートを
紹介され早速姉に連絡を取り、格安な条件で借りる事が出来た。
其処は六畳と四畳半の2Kの木造アパートだった。

そして一ヶ月後に姉の佳代が上京してきて、住宅街の一角にあるアパートで
一緒に住むようになった。
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