短小男の性戯に狂う人妻。其の二
◇誰にも言えない秘密◇

気持ちの張りは、すぐに表に表れて来る様でした。
初めは不慣れでしたが、だんだんと仕事のコッも掴みはじめました。
心身ともに生き生きしているのが、自分でも判りました。
(生き甲斐を持つって、素晴らしい事だわ)

パートに出るようになってから、毎日が楽しくて仕方ありませんでした。
時給は800円ほどで、たいして家計の足しに成る訳でもありませんが、
お金はさほど重要なことではなかったのです。

仕事は家事に比べてやり甲斐のあるものでした。職場の雰囲気も明るく家庭的で、
何より私は“上司”に恵まれていました。
「ねえ、大江さんてステキよねえ」
「ホント。私たちよりかなり若いけど、グッときちゃうわ」
「あと二十若かったら、色目使うとこなんだけど・・・」
「ふふっ、あんたも好きねえ」

他のパート主婦の間でも、大江信彦の人気は中々でした。
人柄の良さは勿論の事、大江の外目・雰囲気は生活に疲れた主婦達の
女心をくすぐらずに止まないものだったのです。

「ほら、ちょつと朝の連ドラに出てる俳優に似てるじゃない」
「背が高いけど、ガッチリしてる。あれは女泣かせだよ、きっと」
「いかにも、女っ蕩しって感じもするのよね。亭主にするのは危険だけど、
 遊び相手にはバッチリじゃない」
「セックスも強そうじゃない、持ち物も、立派そうよ・・・」

お昼の休み時間など、私達は大江の噂話に花を咲かせていました。
何時しか私も、他の二人に負けない位大江に興味を募らせる様に成ったのです。

しかし、所詮興味は興味でしかありませんでした。大江は私よりも二周り近くも
年下で、独身とは言えかなり遊んでいる様子です。
そんな男とどうこうなろうと考えるほど、私は図々しくはありません。
つまり、大江は私たちパート主婦のアイドル、職場の花?に過ぎなかったのです。

処が、パートを始めて一ヶ月ばかり経った夜、思いも掛けない事が起こりました。
何を思ったの、就業時間中に大江が私にメモを手渡したのです。

『今夜、お酒を飲みに行きませんか。もしお暇なら仕事が終わってから、
 地下鉄阪東橋駅の近くのスナック○○○で待っていて下さい』

正直言って最初、私は大江が渡す相手を間違えたのではと思いました。
そのメモは、如何解釈してもデートの申し込みだったからです。けれど直接、
私に手渡したからには相手を間違えると言う事も考えられません。

(嘘みたい、夢みたい!どうして、こんなオバサンを・・・?」
一瞬狐につままれた気分でしたが、すぐに舞い上がってしまいました。
若くてハンサムな男とのデート・・・。私は乙女心を取り戻し、浮かれ浮かれて
指定されたスナックへと向かったのです。

「済みません、夜にお呼びたてして・・・」
「構いませんよ、夫も子供達も、勝手にやっていますから」
「じゃあ、ゆっくりできますね。・・・仕事の方は慣れましたか?」

私と大江は、彼がキープしているボトルウイスキーを水割りで飲み始めました。
客はすくなく洒落ていて、いい雰囲気でした。
「ええ、もうすっかり、仕事がこんなに楽しいなんて思ってませんでした。
 これもみんな、大江さんのおかげです」
「僕の方こそ、市川さんに来てもらって大助かりです。
 市川さん、これからは智子さんと呼んでもいいですか?」
「え?ええ、もちろん・・・」

私はドキリとしました。一気に大江と親しく成れた様な気がして、
年甲斐もなくドギマギしてしまったのです。
「智子さんを見ていると、何だか懐かしい気持ちに成るんです。
 貴女は、僕の姉に似ているんですよ。姉は、十年前に亡くなってしまいましたが」
「まあ、お気の毒に・・・」
「弟の目からも、それは美しい人でした。
 僕は、少しばかりシスターコンプレックスの気があるのかもしれません」
思いも寄らぬその熱っぽい眼差しに、私はボーッと昇せてしまいました。
いったい、大江は何を言おうとしているのだろ、ひどくきわどいムードでした。

「だから一目会った時から、他人のような気がしないんですよ。この人になら、
 何でも打ち明ける事が出来る。失礼だけど、そう勝手に思い込んだんです」
「私でよければ何なりと・・・。でも、大江さんなら幾らでも他に話を聞いてくれる
 人がいるんじゃありません・・・どうして結婚なさらないの?」

それは一番の関心事でした。どうして三十五まで独身なのか、
彼くらいの男なら女など選り取りみどりだろうに・・・。
「僕って・・・いかにも女好きに見えるでしょう?」
「そうね。遊び慣れてるカンジ」
「人間、見た目じゃ判らないものですよ」

急に大江の顔色が深刻なものに変わりました。
「僕はね、意外かもしれないけど、とても気弱なんです。
 自慢じゃないが、自然と女が近寄ってくる・・・昔からそうでした。
 けれど、手当たり次第と言う訳にはいかなかったんです。どうしても・・・」
「まあっ、勿体ないお話ね。理想が高すぎるんじゃないですか?」
「そうじゃないんです。実はその・・・」
そのくだりまでくると、大江は言い澱みました。

「どうも恥ずかしいな。智子さんに、こんな恥を話してもいいんだろうか」
「どうぞおっしゃってよ。私の事、お姉さんの様に思って呉れているんでしょう」
「智子さんなら、何でも許して呉れる気がするから不思議ですね。
 こんなこと、とても他の女性には話す気には成れません」

一呼吸おいて、大江はとんでもない事実を明かしました。
確かにそれは、誰にでも出来る話ではありませんでした。
「僕には、ある肉体的欠陥があるんです。
 そのために、女をベッドに誘う事が出来ないんです。
 智子さん、短小って言葉を知ってますよね・・・」
inserted by FC2 system